うんち物語
2019-06-08
(2019/06/11加筆しました。)
ここは私の店だ
ここは私の店だ。
接客と料理には自信がある。
最近では事前予約も団体客も増えてきた。
店内で知り合った客同士、
二次会やカラオケで盛り上がりもする。
店もようやく軌道に乗ったときそれは起こった。
うんちである
店内にうんちが落ちている。
こうした店ではそれほど珍しいことではない。
私は掃除した。
しかし翌日もその翌日も
うんちである
私は掃除した
私はうんちをした犯人を捜そうとはしない。
ただただ掃除をするだけである。
しかし店内のうんちは増え続けた。
当然のように客足が減った。
ある客が私に言った。
「店内でうんち踏んだ!」
私は掃除した。
しかしその客は来なくなった。
張り紙
「店内でうんち禁止」
すぐに張り紙をしたがもう遅かったのである。
既に掃除しきれないほどうんちがあった。
張り紙の真下でうんちしている客がいた。
なるほどこいつが犯人か。
ここはトイレじゃないと何度も注意したが
言葉が通じない。
続けて女性客の前でうんちするその客に
私は我を忘れて怒鳴っていた
「おまえはうちの客ではない!仲間にもそう言っておけ!」
その場限りの謝罪の言葉と
出禁への了承をもらった。
しかしこれは、
私の剣幕に押されて
ついと出た謝罪と了承だ。
その場の刺激に反応しただけである。
常に思考と行動は制御下に置くべきである。
だが生理反応と感情は制御が難しい。
ここでいう生理反応とはそう
うんちである
私は怒鳴りつけたことを反省したが
後悔はない。
なぜなら相手はキッズだ。
キッズはいとも簡単に
うんちを漏らすのだ。
制御が出来なく
ただただ漏れ出し続ける目の前のそれに
私はカっとなってしまったのだ。
私はキッズを憎んではいない。
憎いのはその制御不能な
うんち出口である。
キッズはまだ店内にいたが
私はすぐに掃除した
常連客は来なくなったが
うんちは目に見えて減っていった。
「常連が店を潰す」
なるほどその通りである。
私は掃除し続けた
いつも美味い飯をありがとな
客足も戻ってき、二ヶ月ほど経ったが
未だに無言でキッズ達が居座っている。
しゃべりもしない、注文もしない、
それでいてテーブル席を陣取っている。
私は我慢ならずに言い放った!
「あの、次のお客様がお待ちですので…」
途端に一人のキッズが無言でうんちした。
漏らしたのではない。
わざとしたのだ。
私はキレた!心底キレた!
しかしここは私の店である。
私はキッズ達を出禁にし、掃除した
数日後、
「理由無く突然蹴られた!」
と言われながら
私は理由無く突然蹴られたのだ。
意味が分からず
振り返った先で見たのは出禁キッズとその仲間たちだ。
そしてまたもや、うんちである
張り紙を指差しながら
私は客の目の前で掃除をした。
ここまでくると私の掃除の技術は
圧倒的、悪魔的である。
多少のうんちの量を見ても驚かない。
掃除は私の仕事だ。
全国にいる私のような店主に告げておこう。
それでもいるのだ救いの神は。
希望を捨てるな。
「いつも美味い飯をありがとな」
突然だった。
後ろからそう言われ
冷静に振り返った先には
若者たちがいた。
一部始終を見ていた若者たちは
キッズ達を店外に放り出すのを
手伝ってくれた。
「俺たち、この店が好きなんだ」
その言葉に私は泣いていた。
泣いた理由は他にもあったが
本人たちに直接言えるはずが無かった。
漏らしていたのだ。
そう、うんちである
私は感謝しながら
その若者たちのうんちを掃除した。
君のせいじゃないよ
どの店にも、
言葉は通じるが話が通じない
キッズ客が一定数来る。
文脈の読み取れないキッズ客のため
音のでる知育玩具を店に置いた。
キッズ客に張り紙の効果は無いのである。
知育玩具の評判は上々で
中には制作を手伝わせてくれ、
と申し出る客もいた。
共同制作ほど楽しいものはない。
あるときキッズが座り込んで泣いていた。
私は優しく声をかけた。
「この店うんち臭い。ちゃんと掃除して!」
聞けば他の客に目の前で
うんちをされたのだ、と。
「それはいけない。私が掃除するからどの客か教えてくれないか?」
私は必ず掃除すると約束し、
うんちの場所を聞いた。
そのキッズは私と話して出口が緩んだのか
指差しながら目の前で
うんちを漏らした。
私は掃除した
私はそのキッズにこう伝える
「お嬢さん泣かないで君のせいじゃないよ」
しかしどう考えても
その子のうんち出口のせいだ。
そしてそれは親の責任でもある。
私のせいではない。
しかしここは私の店である。
私は少し苛ついていた
「あなたのお父さんだってよく漏らすよ」
これは完全なる私の失言だった。
一服した父親が無言で戻ってきた。
私はキッズにお礼と謝罪を述べて
そそくさとその席を離れたが
どうも気になることがあった。
私の店はそもそも禁煙だ。
何かがおかしい。
父親の戻ってきた方向をすぐに確認する。
無論、うんちである
慣れとは恐ろしいものである。
私はここで
目の前のうんちに気を取られてしまい
掃除を優先してしまう。
掃除癖というやつだ。
注意深く見ていれば
キッズの指差した方向と
父親の戻ってきた方向が
一致していたことに
もっと早く気付けていたであろう。
隣のカラオケ店
キッズの指差した方向
それは私の店の隣のカラオケ店であった。
私は掃除した
私は隣のカラオケ店を掃除しながら伝えた。
「人は誰でもうんちをする。しかし同時にルールもある。」
そのキッズは私に約束した、
ルールを父親に伝える、と。
店内に「うんちはトイレでしてください。」
との張り紙を見たことがあるだろうか?
私はない。
カラオケ店にももちろんなかった。
私の掃除する姿を見ていた若者たちが
声をかけてきた。
「ごめん、店の掃除手伝うよ。」
私は泣いた。
自分のうんちを自分で掃除する
これは当たり前のことだが
ここは私の店である。
「うんちしてゴメン」
若者たちの謝罪広告を私の店に貼った。
それを見た常連客の優しい言葉に
私はまた泣いた。
世の中まんざらでもない、と。
「うんちはトイレでしてください。」
そのルールを父親に伝えたのか?私は先のキッズに聞いた。
突然の全速力!走って逃げた。食い逃げである。
キッズなら許される
とでも思っているのであろうか。
実際、世の中そうであるから仕方がないが
本来のそれは「謝罪があれば」
という条件付きである。
私は走って追いかけた。
「自分で言えよ嘘つきめ(呆)!!!」
逃げながらそう言い放つキッズに向かって
私は追撃を決意するも
同時に頭に浮かんだのは
先の謝罪広告である。
もう追うのはよそう。
うんちには何よりうんちがお似合いだ。
もう私の店の客ではない。
それよりも大事なことは
今いる客だ。
増改築に取りかかろう。
ここは私の店だ。
増改築して綺麗になった店を見て
ある客が私に言った。
「家族で来ても良いですか?」
私は泣いて言った。
「私のうんちは特大です!それでもよろしければ是非に!」
私は若者たちと隣のカラオケ店も掃除したが
もはや閉店は免れないだろう。
共に掃除をしたという事実と
終わった安堵感だけが残る。
ふと見れば
若者たちはもう漏らしていなかった。
私はいつでも店のドアを開け
テーブル席を用意して待っている。
ここは私の店である
全国の店主よ
人は誰でもうんちをする。
しかし自ら掃除するのは一握りだ。
テーブル席を用意したところで
席にも着かずうんちして逃げたあげく
あの店はまずくてサービスが悪いと言う。
しかし悪口を言う相手とは
この店で会ったのだろう?
その揺るがない事実だけで私は満足である。
掃除は私の仕事だ。
もう一つ付け加えておこう。
私の店の料理はすべて無償だ。
そしてここは
私の店である。
さて全国の店主に伝えておくことがある。
店を畳むのは簡単だ。
大きな責任を抱え
心が潰されそうになることもあるだろう。
しかしあなたはその責任とやらを果たして
報酬をもらっているのか?
そもそも責任などないと知るのだ。
あるのは店主の想いだけである。
無償で提供した料理を食べた客に
まずいと言われることもあるだろう。
心配するな、本当にそれはまずいのだ。
まずいものをまずいという客は
うんち出口が制御できないキッズだ。
良い客は店のことを考えてこう言う
「おっちゃん七味ない?」
店内でうんちされることもあるだろう。
そのときは自分の感情に惑わされるな。
怒りの行動に転じる理由は
相手がキッズだからである。
相手が美少女ならむしろ褒美である。
行動を変えるのは考え方である。
「心にダイソン」を持ち
黙って掃除するのだ。
店を畳むのは簡単だ。
しかし想いを捨てるのは
簡単ではないはずだ。
そこはあなたの店である。
エピローグ
最後に
私が店を作って一年経った頃
東京でとある常連客と
会った日のことを話をしておこう。
偶然と偶然が重なり
急遽三人で会うことになったのである。
例の知育玩具の制作を手伝ってくれた客だ
もちろん全員お初だが
四時間以上も話が尽きることはなかった。
嬉しいのがお互いに
贈り物を両手に抱えてきたことである
店主としてもらえる報酬があるとすれば
こうしたものであろう
…
その後、常連客と別れた私は
夜の酒場にいた。
そう、東京といえばあの酒場しかあるまい。
私はカウンターに腰掛け
木樽ジョッキ片手にマスターに尋ねた。
「教えてくれないか。店主として嬉しかったことがあるなら」
マスターはゆっくり話し始めた。
「先週のことです。
あなたの今いる席のちょうど隣、
二人並んで座った客がいたんです。
聞けば来週結婚するとか。」
ふん、よくある話だ。
「出会いのきっかけとなったのは
ある地方の店だと言ってました。
その縁から、結婚前にどうしても
この酒場を訪れたかったそうなんですよ。」
迷惑な話である。
ごく稀に成功する出会いのきっかけを夢見て
何人ものうんちが私の店でうんちをする。
そんな成功事例は万分の一もないのだ。
そして私の店の席数は五十しかない。
期待する客も頭がどうかしてる。
店内でうんち禁止の張り紙が見えないのか。
何人出禁にすれば分かるのか。
マスターの話は続いた。
「で、ですね
あちらのテーブル席にいらした
男性客のグループが
その話を聞いていたようで
めでたい二人の分も一緒に、って
お支払いを済まして
さっと帰ってしまわれたんです」
飲みかけの木樽ロックグラスを置いて
私はテーブル席の方を見た。
私をどこかの店主だと悟ったのだろう。
二杯目は是非これで、と
店に一つしかない木樽ロックグラスを
用意してくれていたのだ。
私は聞いた
「その、支払いのことだが
めでたい二人は知ってたのか?」と。
「いえ、思いもせずのことでしたし。
うちのスタッフも勢いに押されて
言われるがまま。
私も後で知ったんですよ。
もちろんその男性客が帰った後に
めでたい二人にはちゃんと伝えましたよ。」
愚問だった。
しかし思わず確認せずにいられなかった。
世の中、売名と自己承認欲求に満ちている。
だからこそ分かることもある。
その男性客グループの中には
どこぞの高名な店主がいたはずだ。
名前も伝えず
顔も見せず
支払いを済ました彼らは
スタッフにこう伝えたはずだ。
「お二人におめでとう、と」
そうだろ?マスター?
マスターは黙って頷き
私のグラスにブランデーを注いだ。
今夜は長そうだ
…
私は翌日
西新宿淀本店でルンバを購入した。
うんちの自動掃除ができると聞いたからだ。
ふふ、相変わらず私は臆病だな。
名も知らないどこぞの高名な店主に
お前が張り合ってどうする?
だが思い出したんだろ?
店を構えたときの気持ちを。
自動掃除するための掃除により
私の店は以前より綺麗だ。
そのことを昔の客に
どうしても伝えたかった。
私は今から新メニューの準備に入る。
新しい知育玩具の用意も出来ている。
いやもうそれは知育ではないな。
大人も楽しめる高度な人生ゲーム
といったところか。
Girl’s Festival PV(ver.7.1.02/Twitter用01)
分かっているだろうが
夏のカキ氷が食えるのは
九月六日からだ。
ふん、嬉しい返事も来るものだな。
待っているからいつでも来い。
約束通り、一年以上経っても
店の場所は変わっていない。
まずい料理を食わせてやる。
うんちが落ちていれば私が掃除してやろう。
ここは私の店だ。
(おわり)
コメント
いゆぼ
これを読んだ次の日に犬のうんちを踏みました。偶然でしょうか。
Komainu
犬のうんち!ラッキーでしたね。私なんて人に説教してたら背中にうんちぶつけられましたからね。いいなぁ犬のうんち。